多焦点眼内レンズ移植術

さまざまな目の病気について、
その内容や治療方法などをご紹介します。

多焦点眼内レンズ移植術とは

単焦点眼内レンズはピントが固定されています。そのため単焦点眼内レンズを移植した場合には、遠近の両方にピントを合わせることができませんので、この「老視」状態による眼鏡のはめ外しが必要となります。この問題を解決するものが、遠近の両方にピントが合う多焦点眼内レンズです。

現在、国内で承認されている多焦点眼内レンズは10種類以上あります。以前から使用されている2焦点眼内レンズの他に、3焦点眼内レンズや、焦点深度を深くしてピントのあう距離を広げた焦点深度拡張型レンズ、連続焦点型レンズなどがありますが、若い頃のように、自動的に水晶体の厚みを変えて、見たい距離の像にくっきりとピントを合わせるという方法とは全く違っています。

多焦点眼内レンズでは外から目に入ってきた光を遠方と近方に振り分けることによって、複数の距離にピントを合わせるようにしていますので、見え方のシャープさが劣ります。また、同じ網膜上の1点に遠方の像と近方の像が同時にピントが合っていますので、頭の中で近い距離の像か遠い距離の像かを判断して、物を認識するという過程が必要になります。

このため、多焦点眼内レンズ移植を受けた場合には数週間から数ヶ月たたないと、頭の中が整理されてきませんので、くっきりした像をみることができません。メガネをかけずに見える距離の範囲が広がるという特徴は魅力的ですが、単焦点眼内レンズ移植を受けた場合のように、術後すぐにクリアな像が見えるという訳にはいきません。

また、「多焦点眼内レンズ」には、夜間の運転中にヘッドライトなどの強い光を見た時に眩しく感じる「グレア」や、光の周囲に輪がかかってみえる「ハロー」といわれる現象もあります。これらの現象は、手術後、徐々に軽快してきますが、完全になくなるものではありませんので、夜間に車を運転する時間が長い方にはお勧めできません。

■グレア

夜間、暗い所でヘッドライトなどの強い光を見た時にまぶしく感じる

■ハロー

光の周囲に輪がかかって見える
 

「多焦点眼内レンズ」については、その利点ばかりが強調されて広く知られてきていますが、上記の「グレア」「ハロー」や、頭の中での順応が必要であることなどの他に、なんとなく像がぼやけているといったコントラストの低下もあり、現在の時点では完璧なレンズではありません。ですが、日常生活の大半を眼鏡なしで生活できるという大きなメリットがあります。

多焦点眼内レンズは2008年に「先進医療」に認定され、健康保険適応外の自費治療として使用されてきましたが、2020年からは「選定療養」という枠組みに入りました。「選定療養」とは、個室の差額ベッド代と同じような枠組みで、追加費用を負担することによって保険適応の治療と保険適応外の治療を併せて受けることができる制度です。このため、多焦点眼内レンズ手術を受けた場合には、多焦点眼内レンズの差額分をお支払いいただくことになります。

この「選定療養」の枠組みに入らず、通常の健康保険の範囲内で使用できる近方加入度が小さな単焦点眼内レンズや、なだらかな焦点深度をもった単焦点眼内レンズもでてきています。これらの単焦点眼内レンズでは近くを見るための加入度数が小さくなっているため、通常の多焦点眼内レンズの様に遠近にしっかりピントを合わせることができない反面、通常の多焦点眼内レンズのもつ様々な不都合を弱めることができるレンズです。

多焦点眼内レンズ移植を受けるかどうかの選択

多焦点眼内レンズは現時点では完璧な「多焦点」ではなく、移植された多焦点眼内レンズに慣れるには時間がかかりますし、数ヶ月経過しても多焦点眼内レンズの見え方に不満を訴える方もおられます。日本でのしっかりした統計はでておりませんが、多焦点眼内レンズの移植を受けた人のなかで、20人から100人に1人の割合で、移植された多焦点眼内レンズの見え方に慣れることができず、単焦点眼内レンズに入れ替える方がおられます。

これらのことから、当院では多焦点眼内レンズをあまりお勧めしておりませんが、多焦点眼内レンズをご希望の方には、両眼に多焦点眼内レンズを移植するのではなく、利き目でない一方の眼のみに多焦点眼内レンズを使用し、利き目には遠方にピントを合わせた単焦点眼内レンズを用いるハイブリッド方式を推奨しています。このハイブリッド方式であれば、多焦点眼内レンズの欠点をある程度補うことができ、しかも眼鏡を使用しなくても近方を見ることができます。

最近は眼鏡光学の進歩が素晴らしく、眼鏡の使用を許容できる方であれば、白内障手術時には両眼に単焦点眼内レンズを移植し、術後は累進屈折レンズを使用して、遠方も近方もクリアな像をみるという生活が一番無難な選択だと当院では考えています。このため、当院では単焦点眼内レンズの移植を第一選択にしています。

累進屈折レンズには遠近タイプや中近タイプの他に、パソコンなどのデスクワークを長時間行なう人のための近々タイプがあります。いずれのレンズも下方のやや側方を見た時には、レンズの収差のために僅かな複視のでる場合がありますが、最近は光学設計の進歩により以前よりずっと改善されてきています。また、インディビデュアルレンズ(individual lens)といって個人個人の装用状態を考慮したレンズ設計もできるようになっています。

どんな眼内レンズを使用するかの決定は、最終的にはご本人のご意向が一番大切ですので、疑問点があれば担当医とご相談ください。

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