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Retina

2014
34巻

米国の硝子体薬物注射の新しいガイドライン(2004年版をアップデート)

Retina 34巻(12号)2014

Intravitreal Injection Technique and Monitoring
Updated Guidelines of an Expert Panel
Avery RL, et al. (US-CA)
RETINA 34(12S): S1-S18, 2014
・2004-2014に出版された文献をレビューし専門家チームが審議して作成
・2004年版との大きな違い;①注射前後の抗菌薬の投与が眼内炎のリスクを下げるエビデンスの欠如、②患者 and/or 投与者の口腔内細菌がエアロゾル化して術野に落下することが感染源の可能性
・専門家はポピドンヨードを投与すること、および注射部位や注射針と眼瞼との接触を避けることが重要と強調
(注:本邦では硝子体注射の前後に抗菌薬点眼を使用することが添付文書に明記されている)
【ガイドライン本文】
硝子体注射に際する総論
個々の治療
・以下に示すガイドラインは必要であれば個々の患者に応じて投与者が最良の臨床判断をすべきである
抗菌薬の使用
・ルーチンに注射前・最中・注射後に抗菌薬を投与することが眼内炎の発症率を減らすことを支持するエビデンスは不十分である
<注射に際する注意と予防法のガイドライン>
特定の臨床的状況
IVTに対する絶対的な禁忌はない。しかしながら下記のように投与者の臨床的判断を要する状況がある。
高眼圧症および緑内障:
1) 高眼圧症および緑内障を合併する患者に対しては標準的または実践的に好まれる治療をすべきである。
2) IVTが視力維持に有用と考えられる場合は高眼圧症および緑内障の病歴があるからといってIVTを否定したり中止すべきではない。
3)これらの患者にIVTを施行するときは術者が注射前後の眼圧を含めた標準的なモニタリングが必要である。
4)ルーチンに前房穿刺を行う必要はない。
眼疾患および眼手術の既往:これらがあることは考慮に入れるべきだがIVTの適応がある場合はIVTを中止すべきではない。切開性の緑内障手術を行っている領域は避ける。
最近白内障手術を受けた患者:投与者が最善の臨床的判断を下す。
内科的疾患および眼疾患を複数もつ患者:メディカルチーム全体で判断すべき。
抗凝固薬を投与中の患者:IVTに際する抗凝固薬のリスクは最小であり、これらの患者はIVTの禁忌にはならない。
ポピドンヨードアレルギー:真のポピドンヨード患者は稀である。ポピドンヨードを眼に外用したあとのアナフィラキシーは報告されていない。
活動性の外眼部炎症(眼瞼炎を含む):これらの炎症が治癒するまでIVTは延期すべき。そうでなければ治療のベネフィットが眼内炎のリスクを上回るかを投与者が判断すべき。
眼瞼・付属器・眼表面の異常:これらの異常は眼内炎のリスクファクターとして認識すべき。
<注射前・注射中のマネージメントに関するガイドライン>
注射のためのセッティング
IVTは診療室・治療室・手術室などのセッティングで安全に行うことができる。
両眼注射
・同じ日に両眼への注射を計画した場合、投与者は十分な注意を払うべきである。両眼同時注射の場合、それぞれの眼で準備や工程を分ける。調剤する場所を変える、注射シリンジや針などを別々にするなど。調合する薬剤の場合はそれぞれの眼で違うロットの薬剤を使用する。
手袋とドレープ
・手袋の使用は(滅菌・非滅菌に関わらず)眼内炎のリスクを下げることが示されている。ドレープのルーチン使用を支持するエビデンスはない。
会話とマスク着用
・眼内炎のリスクを低下させるためには、患者 and/or スタッフから飛散した口腔内細菌の落下は最小限にすべきである。会話を最小限にする and/or マスクを着用することで達成できる(注射中のみでなく注射の準備中も)。
眼表面・眼瞼皮膚へのポピドンヨードの投与
・ポピドンヨード(5-10%)は注射部位に最後に点眼すべき薬剤である。ポピドンヨードは眼瞼縁および睫毛を含む眼瞼にも塗布すべきであるが、眼瞼をこすったり押さえたりすることはマイボーム腺内容物を排出させるため避ける。ゼリー状の麻酔薬を使用する場合、ポピドンヨードはジェル投与の前後に点眼する。ポピドンヨードの最後の投与を行った後は、注射が完了するまで注射部位と眼瞼縁・睫毛が接触しないようにする。
眼球の軟化
・眼球を軟化させることは通常必要ではないが、緑内障性視神経症の患者やIVT後の高眼圧が持続する可能性がある患者、さらに眼圧上昇が視神経に有意なダメージをもたらす可能性のある患者に対しては考慮しても良い。
散瞳
・散瞳の是非は専門家チームで意見が分かれた(注射後の見え方を問診するだけで十分vs. 注射後に後眼部を診察することが重要)。
局所麻酔
・患者の不快を最小限にする為に局所麻酔は投与すべきである。点眼以外にも結膜下注射も考慮される。ジェル状の麻酔薬は注射部位のポピドンヨードの接触を妨げるため注意すべき。
開瞼器の使用
・ポピドンヨードの最後の投与を行った後は、注射が完了するまで注射部位や注射針と眼瞼縁・睫毛が接触しないようにすることは重要。開瞼器の使用はこれを達成する一般的な方法であるが、他の方法で(眼瞼を引っ張るなど)で達成できるならそれでも良い。
注射部位
・注射部位は水平筋と垂直筋との間、角膜輪部から3.5-4.0mmの毛様体扁平部にすべき。どのquadrant(上耳側etc.)にするかは患者の状況と術者の好みで判断する。斜め刺しは注射薬の逆流を最小限にできるが、垂直刺しが簡便で好まれているよう。
針のゲージと長さ
・針のゲージ数は注射薬に応じて選択されるべきである。無形の液体の薬剤では30ゲージ以下が好まれる。懸濁液や粘性の高い液体の場合は太くなる。針の長さは5/8インチ(18mm)以下でかつ毛様体扁平部を貫通できる長さにする。
注射プロトコル
・IVTに際する適切な手順は以下のとおりである。
サージカルマスク着用、または患者・術者ともに注射の準備・投与の間の会話を最低限にする
患者・投与薬剤・左右眼を確認するためのタイムアウトをとる
眼表面に液体の麻酔薬を点眼する
睫毛と眼瞼縁にポピドンヨードを塗布(10%が多い)
眼瞼を引き上げ注射部位と接しないようにする
ポピドンヨード点眼(5%が多い)を注射部位を含む範囲に点眼*注射前30秒以内に
麻酔薬の追加が必要になった場合はポピドンヨードを再度点眼する
水平筋と垂直筋との間、角膜輪部から3.5-4.0mmの毛様体扁平部に垂直に針を刺入する。
<注射後のマネージメントに関するガイドライン>
眼圧
・注射後に眼圧を測定し、眼圧上昇が持続すると考えられる場合は治療する。
患者の帰宅
・患者が帰宅する際には術者が患者の見え方を確認する。24時間いつでも可能な緊急連絡先を患者に伝える。IVTが問題なく完了した場合は帰宅前に用心すべき特別なことはないが、眼をこすらないようにすることと眼内炎・網膜剥離・眼内出血の症状について患者および介護者に伝えておく。眼痛、眼不快感、光過敏、光が赤く見える、視力が次第に悪化、中心・周辺部および全領域の見え方の低下など。
<フォローアップに関するガイドライン>
フォローアッププロトコル
・注射後のフォローアップは患者個々に対して決めるべきである。(MK)

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